恋人のように仲良し、でもなく、感謝の気持ちも定期的に忘れ
お互いの欠点は今だに罵り合い、言いたいことはめんどくさいからもはや言わない。
見事、世の中でいう
「いい夫婦ランキング」の逆を闊歩しつつ、
なんとか結婚26年目を迎えた夫婦の妻の方が語る
「ラブじゃない夫婦だけど、なんだかんだやってこれた話」
読んでくれた人がちょっと肩の力が抜けてくれたら嬉しい。
織恵的パートナーシップ全6シリーズ中4作目。
▶︎織恵的パートナーシップ④「分かり合えない」案件について
「愛する─それは互いに見つめあうことではなく、一緒に同じ方向を見つめることである」
(サン・テグジュペリ)
亮夏が高校を卒業し、
「脳性麻痺の自分だからこそできること」を仕事にすべく、
人脈作りに、活動の周知にと私と亮夏は日々走り回っていた。
そんなある日のこと。
亮さんの活動に興味を持ってくれた3つの法人さんから、
たまたま3日連続で夜の時間帯での打ち合わせの依頼が入った。
一瞬、
「夜、しかも3日連続か、、、」
そう頭によぎったが、こんなチャンス、
断る理由なんてない。もちろん二つ返事で快諾した。
同時にふと夫の顔が頭に浮かんだ。
彼は「夕食はなんでもいい」と言う。
ただ、3日連続お弁当というわけにはいかない。夕食の準備だけはしっかりしておこう、そう私は思った。
そして当日。
1夜目はオムライス、2夜目はカレーを作り、残すところは3夜目のみとなった。
流石に連日の亮さんとの移動やプレゼンに疲れを感じた私は、3夜目のメニューは忙しい主婦の味方、鍋にすることにした。
材料は予め切って用意しておき、あとは鍋の素をざーっと鍋に入れ、煮込むだけだ。
夕方自宅を出て、車で1時間の訪問先へ。
予定終了時刻を1時間過ぎた20時に終了。
そのまま駆け足で駐車場に向かって車椅子を走らせた。
「亮さんやばい、時間押してもーた。」
呼吸を整えながらエンジンをかけ、後方のドアを開ける。
スロープを引き出し、「せーの」の掛け声と共に車椅子ごと亮夏を車内へ押し入れる。車椅子固定フックを四つガチャガチャと車輪にかけ、ロックボタンを押し、後方ドアを閉めた。
よいしょと運転席に座った途端、車内に電話の音がけたたましく鳴り響いた。
車内ナビパネルに表示された名前を見て、ギョッとする。
「電話 夫くん」
チラッとバックミラー越しの亮さんと目が合う。
「きた。」
一つ息を吸って、「受ける」のボタンを押す。
「おい」
夫のその一言で、何を言いたいのかが車内の2人は感知、
0コンマ何秒にA(とにかく愉快に受け答えする)かB(応戦する)か、どちらの態度で答えるかを考える。
まずはA。
「はーい!!ごめんな、遅くなってしまったー!
今出たからあと1時間せんくらいで帰れると思う!
お腹空いたやろ?ごめんやで!鍋に出汁入れて火をつけといてくれたら、帰ったらすぐにご飯にできるよ!」
愉快に、アップテンポで投げてみた。
「は? お前、こんな時間まで飯も作らんと好きなことばっかりしやがって!ええ加減にせぇよ!」
A作戦失敗→すぐさまB作戦に切り替え、応戦体制に入る。
「ちょっと!
好きなことって何よ。遊んでるんと違うで!
亮夏の未来がかかってる大事な仕事やろ。父親なんやったら応援してあげてもいいんじゃないの?!」
「何が仕事じゃ。家のこともできんと、勝手なことばっかりすんな!」
「家のことって何よ、ご飯なら作って出てるやんか!鍋の出汁ぐらい入れてくれてもいいやろ!」
「なんで俺がそんなことそんなあかんねん!おまっ」
ぷち。一旦電話を切る。
え、うざ。
バックミラー越し、醜い親のやり取りを聞かされ、
微妙な顔をしている亮さんに話しかける。
「なんなんあれ!聞いた?
いや、、、亮夏は気にせんで良いからな。
しかし父親やのに応援できんか。
鍋の出汁ぐらい入れれんか?!
信じられん、マジでムカつくぬああああああああああ!」
夫は、私と亮夏が何かに挑戦したり、活動していることを、いつも「好きなこと(遊んでいる)をしている」という。
確かに好きな事をしているが、断じて遊んでいるわけではない。今まだ世にない仕事や価値を作ろうと必死で、めちゃくちゃ真剣に挑んでいる。良いことばかり、楽しい事ばかりじゃないし、亮夏と出かけるだけでも、食事や排泄などかなりのエネルギーが必要なのだ。
ただ、この件について何度伝えてきても夫の理解は得られなかった。
「なんも知らんくせに、偉そうに飯飯飯飯言いやがって!!」
収まらない怒りを、バンバンとハンドルにうちつける。
その時ふと、赤信号を見た視線を右隣りにやった。
白いワンボックスカー。
どうやら家族連れで、運転の父親らしき人が、後方の子どもたちに何やら楽しそうに話しかけている。
なぜかその景色を見て私は思った。
「これはきっと、分かり合えないなぁ。」
夫婦とて、いくら話し合っても分かり合えないことはあるのかもしれない。
夫婦だから分かり合いたい、いや、当然分かりあうべきだ。そう思っていた。だからしんどかった。
でも、夫婦だって他人。
話し合って分かり合えることもあれば、分かり合えないことだってあるんじゃないか。そう思った。
そして考えた。
夫は何をあんなに怒っていたのだろうか。
鍋の出汁を入れるくらい大したことでもないのに、、、、。
ああ、そっか。寂しいのか。
たかが鍋、されど鍋。
もしかしたら
【自分のためにご飯を用意していること】が、
彼にとっては
【自分を見ている、思ってくれている】
そのバロメーターなのかもしれない。
そう思ったら、なんだか申し訳ないような、可愛いような、肩の力がふと抜けた。
「亮さんわかった。パパは寂しかったんや。帰ったらそれは謝るわ。」
ニヤリと笑う亮さん。
帰宅後、ぷりぷりしている夫に鍋の出汁を入れながら伝えた。
「寂しい思いさせてごめんね。
内容はともかく、夫くんは私がご飯を作っているかどうかを愛情のバロメーターにしてたんやって、今にして気がつきました。(つまり「あなたの思考こうなってますよ」と、伝えている。)今度からはご飯気をつけるね。」
「、、、、うん。」
そしてすぐさま伝えた。
「でも、私ら、遊んでんとちゃうから。」
夫婦でも分かり合えないことがあって良い。
それを否定し合うのではなく、「分かり合えないことがある」と理解した上で、ではどうするのかを話し合ってゆく。
ではお伝えする。
▶︎織恵的パートナーシップ④
夫婦だからって、全てをわかり合えなくてもいいんちゃう。